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昨日の自分より今の自分<br>小林麻美の素敵な時の重ね方 vol.01【後編】

セミナーレポート

昨日の自分より今の自分
小林麻美の素敵な時の重ね方 vol.01【後編】

2018.03.01

昨年12月、小林麻美さんによる「昨日の自分より今の自分 小林麻美の素敵な時の重ね方」と題されたセミナーが開催されました。現在、日本服飾文化振興財団の評議員を務め、自身が所有する約180着もの〈イブ・サンローラン〉のヴィンテージコレクションを財団に寄贈された小林さん。セミナーでは、時間を重ねると共に自分自身をアップデートすることの大切さ、そしてこれからの生き方について語って下さいました。vol.01【後編】の様子をレポートでお届けします。

Photo: Takeshi Wakabayashi
Text: Yuichiro Tsuji

年齢を重ねるほどにシンプルに。

- 続きまして、年齢を重ねることとおしゃれの関係について語っていただこうと思います。その中で、心がけていらっしゃることはありますか?

小林: "引き算することが大切" だと思います。例えばメークですが、私の場合は年々薄くなっていて、そのほうがしっくりくるんですよね。

- 年齢を重ねると、それを隠すためにメイクを濃くしてしまいがちだと思うんですが、小林さんはそうではないんですね。

小林: ただ、"薄くする"のと、"しない"のは違います。例えば、一時期ノーファンデが流行って、私も実践した時代もあったんですが、実は最近また考えが変わってきて、ファンデーションはあえて塗ったほうがキレイだという結論に達しました(笑)。

- そういうものなんですね。

小林: やっぱりある程度塗ったほうがキレイに見えるんですよね。要するに全部引いたりする必要はなくて、自分の顔立ちや肌とのバランスを見ながらメイクをすることが大切なのかなと。

- 同じく引き算することの大切さの中では、“好きなモノが少しだけあればいい”というお話も事前に伺っています。これはどういうことなんでしょうか?

小林: 例えば旅行に行ったときのことを考えると、それがどんなに長期でも、トランクの中へそんなにたくさんの服を詰め込んだりしないですよね。最低限のワードローブでも過ごせちゃう。私も旅行に行くたびに「服ってそんなにたくさんいらないんだ」って感じていたんです。東京にいるとモノが溢れていて、私たちはそれに慣れてしまっていますが、最低限のワードローブのなかでアレンジさえ上手にできれば、それで事足ります。

- また、年齢を重ねることとおしゃれの関係のなかで、小林さんは“年相応が素敵”ということも事前に仰っていました。「若く見えることをセールスポイントにする必要はない」、「若いをプライオリティーにする世の中に流されない」というお話でしたよね。

小林: 誤解がないようにしたいんですが、若く見られることを非難しているわけではないんです。たしかに老けて見られるよりは、若く見られたほうがうれしいですもの(笑)。今フランスの大統領を務めていらっしゃるエマニュエル・マクロンさんは25歳年上のお相手とご結婚されました。その奥さまは高級メゾンの服を着て、ミニスカートをはいていらっしゃるんです。

- すごく素敵な方ですよね。

小林: でも日本だとなかなか受け入れられないですよね。年の差婚でもああやって素敵なカップルが誕生しているのに、日本にはそれを正視する土壌がまだできていない。それがちょっと残念だなって思います。


世界的女優であるジェーン・バーキンとの思い出。

- 次に小林さんの考える美しさについてお話いただこうと思います。小林さんが素敵だと思う人物がいらっしゃいまして、その方がジェーン・バーキンさんなんですよね。

小林: 素敵な方はたくさんいらっしゃいますが、彼女とは直接お会いする機会があり、印象に残っています。30年ほど前にパリで対談をさせていただいたのですが、すごく素敵な方でした。お家にご招待いただいて、彼女のお嬢さんのルー・ドワイヨンがいま有名な女優になっていますけど、当時はまだ本当に幼くて「マミ~」なんて甘えたりしていましたね。一方、他の部屋に行くとシャルロット・ゲンズブールが勉強したりしていて。なんだかすごい光景でした(笑)。

- その対談で、ジェーンさんが着ていらっしゃった毛皮のコートに一目惚れされたとか。

小林: そうなんです(笑)。彼女はいつもジーンズをはいていて「ブランドの服にはあまり興味がないんだろうなぁ」と勝手に思っていたんですけど、対談当日にすごく素敵なコートを着ていたんです。彼女が席を立つ瞬間があったので、思わずタグをチェックしたら〈イヴ・サンローラン〉でした! 翌日お店へ行って同じコートを探したら「毛皮が違うんですけど同じ形のコートならありますよ」と言われて、購入しました。そのときがたまたまセールのシーズンで半額になっていたので、思い切って(笑)。

- カシミアのセーターをプレゼントされたというお話も伺ってます。

小林: 実はここにあるセーターがそうなんです。彼女が私になにかプレゼントしたいと言ってくださって、私は「あなたが着ているセーターと同じものが欲しい」と答えたんです。そしたらパリにある〈ヒルディッチ&キー〉というブランドの直営店に連れて行ってくれて、同じセーターを買っていただいたんです。彼女はイギリス人で、このブランドもイギリス発祥なんですよね。30年以上も前のものなのに、まだまだ現役。彼女はこれを毛玉だらけで着ていて、そういうラフなスタイルが素敵だなぁと思いますね。


小林さんが自分のためにした買い物。

- 続いて"自分の気持ちをアップさせるためにやっていること"という内容でお話いただきます。そのひとつがご自分へのご褒美ですよね。最近購入されたものはありますか?

小林: ヌーベルシノワの家具を買いました。中国の観音開きの家具なんですけど、そこにセーターを入れています。家具をひとつ変えるだけで部屋の雰囲気がグッと変わるんですよ。黒を基調に、差し色には赤が使われている家具で、蝶の金具がついているんですけど、部屋がすごくエキゾチックで色っぽくなりましたね。すごく艶めきました。

- 他にも購入されたものはありますか?

小林: あとはベトナムの民族衣装のアオザイですね。インターネットでアオザイ屋さんを探して尋ねてみたら、池袋にあったんですけど、雑居ビルの中にお店を構えていて。恐る恐る入ってみたら、ベトナム人の方が切り盛りしているお店で、アオザイはすべて本国から輸入しているそうなんです。本場の服だから着るとやっぱりキレイなんですよね。最近はアオザイが本当に好きで、そこで購入したものはこの春に着たいなぁと思っています。


私たちは今が大切。

- では最後に、時を重ねて変わったこと変わらないことについて伺います。小林さんからメッセージを預かっているのでご披露したいと思います。

「好きなものは同じです」
「洋服は原点(=好きなもの)に戻る」

「完璧は求めない。現状維持でいいと思う」
「年齢を受け入れた上でアップデートしたい」
「未来も大切ですが、今を感じなくなったら意味がない」
「私たちは今が大切」

- やはり、今が大切なんですね。

小林: そうですね。今を大切にしないと未来もないと思います。なんかすごく偉そうですけど…(笑)、でも本当にそう思います。

- 2016年に雑誌の表紙を飾られていましたよね。

小林: そうです。私は25年間仕事をお休みしていて、復帰するつもりもなかったのですが、色々なタイミングが重なってやってみようかなという気になったんです。でも25年というブランクがあって、自分が着るものも何が似合うのか分からなくてブレていた部分もあったんですけど…。ただ、やっぱり自分が胸を張って好きだって言える服があって、今はそこに戻りましたね。私はシャツとスカートとブーツが好きで、それを身につけていれば安心できる。いろんなものに挑戦した結果、自分の好きなものを明確に知ることができて、今はそれを大切にしていますね。

vol.01 【前編】はこちら

PROFILE

小林 麻美

Asami Kobayashi

1970年代からモデル、歌手、女優として活躍。資生堂やパルコのCM、ヒット曲「雨音はショパンの調べ」などで、スタイリッシュな女性の代表格的存在となる。1991年結婚を機に引退。2016年『kunel』で25年ぶりに表紙を飾る。現在、公益法人日本服飾文化振興財団評議員。

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