JFLF AWARD 2019 最終選考会レポート
2019年度の助成対象デザイナーが決定!
-作品を通じてデザイナーの未来を考える‐
2020.03.18
セミナーレポート
2018.05.09
昨年行われた第1回目に続き、新年明けた1月末、日本服飾文化振興財団の評議員 小林麻美さんによる「昨日の自分より今の自分 小林麻美の素敵な時の重ね方」と題したセミナーの第2回目が開催されました。今回のテーマは、小林さんが愛する〈イヴ・サンローラン〉について。マリ・クレール編集長の田居克人さんをお招きして、対談形式で行われたセミナーの模様を前編 / 後編に分けてお届けします。
- 小林さん、田居さん、本日はよろしくお願いします。まずは一言、ご挨拶をお願いできますでしょうか。
小林: こんばんは。今日は寒いなかご来場いただき、ありがとうございます。今回は〈イヴ・サンローラン〉の興味深い話をたくさん伺えたらと思っています。よろしくお願いします。
田居: 『マリ・クレール』の田居と申します。今回はお招きいただきありがとうございます。サンローランの公私にわたるパートナーであるピエール・ベルジェという方がいらして、ぼくは彼の本を執筆したことがありました。今回は是非ピエール氏のお話も混ぜながらトークさせていただければと思います。よろしくお願いします。
- まずはじめに、小林さんが〈イヴ・サンローラン〉を好きな理由を教えてください。
小林: どんなに際どい服でも下品にならずに、品よく見える。危ういまでの際どさというか、紙一重で上品さを保つところがこのブランドの服の好きなところなんです。18歳のときだったと思いますが、映画を見て、そのなかで女優さんが着ていた衣装がとても素敵で、それが〈イヴ・サンローラン〉だったというのが出会いです。〈イヴ・サンローラン〉がとても好きな知人の影響を受け、お店に連れていってもらって、背伸びし過ぎかなあと思いながらもどんどん引き込まれていきました。
小林: 私は身長が高かったので日本の服のサイズが中々合わなかったのですが、〈イヴ・サンローラン〉はどこも直さずに着られました。自分の体型に合っていたというのも、惹かれた理由のひとつです。
- 一昨年のことになりますが、小林さんが寄贈してくださった〈イヴ・サンローラン〉のヴィンテージと現代の服を組み合わせてファッションショーを行いました。その画像を振り返りながらお話をしていただきます。
小林: 日本服飾文化振興財団の関係者に向けて行ったショーですが、とっても綺麗でしたね。
- スモーキングジャケットを使用したスタイルからスタートしました。ブランドの代表的なアイテムですね。
田居: スモーキングジャケットはタキシードをアレンジしたものです。どうして“スモーキング”という名前が付いているかというと、食後の喫煙をする際に着るガウンから派生してタキシードができあがり、それが発祥になります。
小林: そうですか。それは知りませんでした。
田居: サンローランは晩年になって自分自身でも語っていますが、記者の「自分のなかの代表作は?」という質問に対して「スモーキング」と答えています。メンズのアイテムをウィメンズに取り入れたというのはサンローランの非凡なところですし、女性の生き方にも影響を与えました。
小林: 男性的な服を着ると、女性らしさがより際立って見えますね。
- 続いて、こちらはコートのスタイリングです。
小林: これは服の前後で丈の長さが微妙に違うんです。後ろを少し長くしています。本当にわずかな違いですが、しっかりと計算されています。本当に素敵な服で、昔のものなのに現代でも着られると思います。ただひとつ、難点は重いこと。今は軽いコートしか着たくない気分ですものね。
田居: こちらのスカートはイザベル・アジャーニがはいていました。
小林: 『サブウェイ』という映画の衣装でした。私の大好きな女優です。スカートが風に舞うところが本当に素敵で、私もミュージックビデオの撮影のときにはきました。大好きな一着です。
小林: このコートは『相続人』という映画を観て、「欲しい!」と思って買ったものです。当時真っ白いPコートはとても珍しかったので。
田居: Pコートは1962年の最初のショーから発表しています。そういう意味では、〈イヴ・サンローラン〉にとってPコートはアイコン的なものです。
小林: たしかPコートは、軍服がルーツでしたね?
田居: そうです。最初はイギリス海軍や漁師の人が着る服としてつくられました。それをモードの世界に持ってきたのが〈イヴ・サンローラン〉の特筆すべきところです。
小林: 今はどのメゾンもPコートをつくっています。私も持っているし、ここにいらっしゃるみなさんも一度は袖を通したことがあると思います。〈イヴ・サンローラン〉の服は人を大人っぽく見せてくれるし、本当に品のある女性らしさを際立たせてくれます。
田居: もう定番ですね。ぼくも三着くらい持ってます(笑)。あとはレザーのブルゾンもブランドのアイコンで、ちょっと前だとエディ・スリマン、そして今のアンソニー・ヴァカレロもデザインしています。すごく伝統的なアイテムだと思います。
小林: 〈イヴ・サンローラン〉の服は、トラッドであったり、少女っぽいものであったり、いろんなエッセンスが混ざっていますよね。
田居: そうですね、引き出しがすごく豊富です。
- こちらはトレンチコートを使ったスタイリングです。
小林: このトレンチコートはずいぶん着ました。自然にヴィンテージのような風合いになっていきましたね。それぐらい気に入っていた服です。
田居: ヨーロッパでは、トレンチコートはクタクタになっているほうがクールだっていう感覚があるそうですが、日本では真逆で、パリッと生地に張りがあるものじゃないと売れないそうです。
小林: 私は真新しい服は洗濯機に入れたり乾燥機にかけて、わざと風合いを出していました。
小林: このジャケットはとても派手に見えますが、好きなアイテムのひとつです。色違いで2色購入しました。こういうエスニックな柄も〈イヴ・サンローラン〉はよく取り入れていますね。
田居: エスニックは60年代後半から70年代にかけてよく取り上げているテーマです。当時の時代の流れがあって、アジアやアフリカで独立運動が起こっていました。それに対するブランドなりの解釈です。中国をテーマにしたり、日本を取り上げたときもありました。
小林: 日本もですか。
田居: そうです。マダム・バタフライからインスピレーションを得た、腰のあたりに着物の帯のようなディテイルを取り入れたドレスをつくったときもありました。エスニックでとくに反響があったのがアマゾネスで、1990年に発表していますが、その名前もそうだし、プリント模様などもすごく印象的でした。
小林: あと、パンツはベルベットですね。私はこの素材が大好きなんです。〈イヴ・サンローラン〉のベルベットは嵩が高くて、他のブランドとは印象が違います。
田居: ぼくもプレタポルテラインの〈イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ〉の茶色いベルベットをはいてました。
小林: おしゃれな男性はみんな買っていましたよね(笑)。
田居: そうそう。ぼくもその仲間入りがしたかったんです(笑)。
小林: これはサファリルック。これも代表ルックのひとつ。各年代で発表していますね。
田居: そうですね。1968年くらいからかな。サファリの帽子を被ったベルーシュカが残したポスターが有名です。あれは男性の服を女性用にアレンジして、なおかつベルトでウェストをキュッと絞ることで、女性のボディラインを綺麗に見せるというアプローチ。本当に上手にメンズアイテムをウィメンズへと昇華させてます。
小林: これは私の大好きなワンピースで、20代の頃の雑誌を見ると、あらゆるところでこの服を着ていました。実は60代になってから『クーネル』という雑誌に出させてもらったときもこの服を着ました。時間が経ってもまったく色褪せない。それは〈イヴ・サンローラン〉のなせる技なのかなと。それこそ真のファッションだと私は思います。
田居: 新しいものでないとファッションじゃないという風潮があるけど、そんなことはないですよね。例えばグッチの古い服も今見ると新鮮に映ったりします。そうやってヴィンテージを着ることは、ある意味ではエコに繋がるとも思います。
- 実際にモデルさんが着用することで服がより輝いて見えますね。
田居: サンローランは、女優やモデルさんなど、ミューズと呼ばれる女性たちの動きを見てデザインのヒントを得ていました。こういう風にデザインすると女性がもっと美しく見える、といったように。
小林: なるほど。このブランドの服を着ると、自分が女性であるということを実感させられます。それは、今田居さんが仰ったことが関係しているのかもしれませんね。
田居: 例えばジュエリーもそうですが、女性が身につけて美しく見えないと、なんのためにデザインをしているかわからない。服は人に着られて、動くことで美しくみえますから。
小林: 人が着てはじめて、服に命が吹き込まれるということですよね。
小林: このワンピースもよく仕事で着ましたね。足元にショートブーツを合わせたりすると、また新鮮に映ります。
田居: サンローランは芸術家に対するオマージュでアートを取り入れた服をよくデザインしていますが、これもおそらくどなたかの絵からインスピレーションを得ていると思いますね。
PROFILE
小林 麻美
Asami Kobayashi
1970年代からモデル、歌手、女優として活躍。資生堂やパルコのCM、ヒット曲「雨音はショパンの調べ」などで、スタイリッシュな女性の代表格的存在となる。1991年結婚を機に引退。2016年『kunel』で25年ぶりに表紙を飾る。現在、公益法人日本服飾文化振興財団評議員。
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